物理的なゆらぎを部屋に届ける
風から自然のゆらぎを生み出す壁
この壁は部屋の外を吹く風に反応し、空間に自然のゆらぎをもたらし、「ボーッと」できる時間を生み出し思考を拡張する。パナソニックとのオープンイノベーションプロジェクト「Aug Lab」の共同研究として制作した。京都市京セラ美術館にて開催された国際アートコンペティション、KYOTO STEAM 2020にキュレーションされ、国内外の市民に鑑賞された。
Issue
デジタルが充満する空間にゆらぎを
Aug Labのプロジェクトは、テクノロジーが効率化に寄与する文脈から離れ、Well Beingに貢献できる未来を描くことをミッションとしてはじまった。
着目したのは、閉鎖的な空間の息苦しさ。
窓が開かない都市の高層ビル。窓のない地下オフィス。風すら吹かない宇宙ステーション。現代から未来を観察すると、このような閉鎖的な空間には、デジタルな情報が溢れて、ストレス負荷が増大するリスクが想像できる。
閉鎖空間にも、物理的なゆらぎを発生させることができれば、過ごす人にとって豊かな時間が生まれるのではないか。これを仮説としてクリエイションがスタートした。
Creation
風の流れを表現する
不規則の価値」を見つめ直すProject_UNで、Konelが開発していた「雷玉:Lightning Ball」が最初のヒントとなった。NASAの衛星データと繋がり、観測された大きな雷に連動し、地球儀にミニ雷を発生させるプロトタイプ。外部データとつながって、リアルタイムに物理的な現象を発生させる。擬似的に自然界とつながり、ぼーっと時間を過ごせることに価値が見出せると仮説をたてた。
同様に閉鎖空間で物理的なゆらぎを発生させるために、コンパクトなサイズのインテリアよりも、できるだけスケールを大きく実装できるように「壁」というインターフェースを選択し、壁とゆらぎの心地よい関係をデザインするに至った。
3m x 3mサイズの壁に実装し、バサバサと音を立てながらゆらぐ壁「TOU」が誕生した。
Technology
風を再現するテクノロジーの融合
ゆらぎかべ TOUには、2つの特殊なテクノロジーが融合されている。
Windgraphy
知財ハンターの協力を得てコラボレーションが実現したのが、風のセンシングを行う「Windgraphy」というテクノロジーだ。
グリッド上に配置された電気抵抗の熱が冷める度合いをデータ化し、風の収録を可能とするニッチな技術であるが、ゆらぎかべとの相性はとてもよかった。
デモデータとして、2019年秋分の日に長野県の諏訪湖にて風の収録を実行した。
磁力に反応する新素材
Windgraphyで収録された風のデータを、グリッド上に配置された電磁石に対応させるプログラムを独自開発した。風が通ることで電磁石に電源が供給される。
この磁力に反応する新素材を開発し、壁材として活用した。(※パナソニック株式会社より特許出願中) 電磁石がONになると、壁が内側に引き寄せられ、全体にウェーブが発生する。
なお電磁石パネルは、770 x 770 x 70(mm)を1ユニットとして構築しているため、壁掛けの絵のように使うことも、柱のように縦に並べることも、壁紙のように壁面全体を覆うことも可能だ。
Future
思考を拡張させる空間への実装
未来には、閉塞感が高い空間が増え続ける兆しがある。
高層マンション、地下空間、病室や宇宙ステーションなど、前述したような空間にとどまらず、ワーキングスペースなど「思考を拡張する」「アイデアを生む」ための空間への導入も視野に入れている。アウトドアでは発想が豊かになる体感を持つ人は多いはずであるが、その感覚がインドアに持ち込めると素敵な未来が訪れるはずだ。
あらたな表現への拡張
今回構築した磁力を制御するシステムは、ゆらぎかべ以外の用途にも活用ができる。
その実例として、アーティストである山崎阿弥とマイケル・スミス‐ウェルチュは、このシステムを新たな作品へとインストールした。
《lost in the wind rose》出典:AMeeT
未知の形、その身体を覆う羽根が、人を見つけてざわめく。この形はツバメや飛行機など風を使うことに最適化した形と、センサーが描く触手のような感知範囲を混合して生まれた。むき出しになったシステムは未知の生き物が横たわるようでもあり、大地が呼吸するようでもある。有機的な感覚のメカニズム 一且分解され、科学的なアプローチと芸術的な解釈で再構築される感性は穂波に包まれて風を追ううちに、麦畑と自分が溶けあうような体験を想起させる。
wind rose (風の菩薇)は風配図の別名。風配図とは特定の場所のある一定期間の風向と風速を図示するもの。 (※展示会場公式キャプションより引用)
《lost in the wind rose》の制作には、Konelのギルドメンバーである高田徹がテクノロジストとして参加し、作品はKYOTO STEAM 2022 国際アートコンペティションにて展示された。
作品に内包されるテクノロジーが、新たな表現へと拡張していく流れは、Konelが目指す理想の一つでもある。
Project Information
Project Owner
Aug Lab
Team
Project Leader | Takashi Ando (Panasonic) |
Creative Director | |
Creative Technologist | Kenji Jones (Konel) |
Hardware Engineer | KinmiraiGakki |
Back-end Engineer | Toru Takata (Konel) |
Material Specialist | Tadatoshi Nakanishi (Panasonic) |
Brand Designer | |
Video Designer | |
Web Engineer | Takashi Shirae(Konel) |